化けの皮がはがれる「メタボリックシンドローム」
◆「健康不安」を煽る厚労省・医学会・製薬メーカー
5月に厚生労働省が「平成16年 国民健康・栄養調査」の結果を発表した。それに先立つ、4月8日に日本肥満学会・日本糖尿病学会・日本動脈硬化学会など8学会が合同で、日本における「メタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome)」の診断基準を公表した。 それをマスコミが大きく取り上げ、クローズアップした。これらの報道はどうみても、無理やり人びとを病気や患者予備軍に仕立て上げているとしか、わたしには思えなかった。しかし、その化けの皮が早くもはがされている。
メタボリックシンドロームの診断基準としては、WHO(世界保健機関)や米国コレステロール教育プログラム(NCEF)が作成している。ところが、最近その見直しが欧米で起こっているという。
メタボリックシンドロームとは、コレステロール値や血圧、血糖など、個々の検査値は異常ではないが、要注意の項目が複数ある状態を指す。糖尿病や高血圧症、高脂血症など、これらの病気を併せ持つと、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険が高まることは医学的に知られている。また、肥満の中でも、特に内臓の周りに脂肪がついた内臓脂肪型肥満は、糖尿病や高脂血症、高血圧などの生活習慣病とより関係が深い。
◆「生活習慣病予防」は医療費削減の切り札にならない
医療費削減の切り札として、厚労省は「生活習慣病予防」を医療制度「改革」の目玉商品にしている。5月18日の衆議院本会議において、民主党の郡和子議員は「政府のメタボリックシンドロームを柱とする生活習慣病対策に、欧米の学会で疑問が呈されている」ことを指摘した。これは新聞記事もなったが、昨日の報道ステーションでは、このときの映像が流れた。
実際、血中の中性脂肪の診断基準や、男性でウエスト85センチ未満という日本のボーダーラインの設定が、かなり低めなのだ。各国のメタボリックシンドロームの基準は、米国では男性103センチ、女性89センチ、中国は男性90センチ、女性80センチ。女性の基準値が男性を上回るのは日本だけ。
日本の基準によれば、1000万人以上がこの診断基準に当てはまると推定されている。つまり厚労省は、治療と称して医師の処方による製薬メーカーの売り上げ向上のために、「健康不安」をあおっているのだ。実際、高コレステロール症患者以外に、不要なコレステロール低下薬が、年間約3300億円市場に拡大している。それに貢献している三共製薬のメバロチンが、特に有名だ。
◆男性に多い内臓脂肪型の肥満 なぜ女性に厳しいのか
そのからくりについて、大櫛陽一氏(東海大医学部教授)は、次のように指摘する。
「ウエスト85センチは、40~69歳の日本人男性の平均(84・7センチ)とほぼ同じ。標準範囲の真ん中です。私に言わせればむしろベストサイズですよ。一方、女性の平均は男性より約5センチ小さい79・3センチ。ところがメタボリックシンドロームの基準は90センチと、男性より逆に5センチも大きい。実に奇妙な話です。
ウエスト基準の算出のもとになった危険因子の一つである総コレステロール値自体にも問題がある。世界各国の総コレステロールの上限値は260~270で、日本の値は極端に低い。閉経後の女性では実に55%が220以上だ。
ところが、日本では更年期以降の多くの女性が『高脂血症』と診断され、コレステロール低下薬を飲まされています」
◆生活習慣病の予防や診断に使えない基準?!
さらに、大櫛氏はこう続ける。
「そもそも日本人は、総コレステロール値が180を下回ると、がんや感染症、うつ病による自殺などで死亡率が逆に上がることも分かっています。最近『小太りの方が長生き』と言われるのはこのためです。
今回のメタボリックシンドロームに限らず、日本の診断基準の最大の問題点は男女別・年齢別でないことです。例えば、心筋梗塞との因果関係が一番はっきりしているLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値が、今回の基準には含まれていない。この症候群の概念は本来、心筋梗塞や糖尿病などの予防や診断に使えるものではありません」
大櫛氏によれば、各国の基準を検証した最近の論文には「奇妙な結果が出るので、日本のウエスト基準は使わないことを推奨する」とまで書かれているそうだ。また、5月25日の日本糖尿病学会の国際シンポジウムでも、英国の研究者が「混乱を避けるため、メタボリックシンドローム自体を使うのをやめよう」と宣言している。
報道ステーションの取材に対して、日本糖尿病学会は議事録が存在しないと、ひたすら逃げていた。ますます、怪しい…。というか、製薬メーカーと学会と厚労省の癒着ぶりが、多くの人たちの前に明らかにされたというべきだろう。