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「米農家を対象とする所得補償制度について」参議院議員 ツルネン マルテイ

「米農家を対象とする所得補償制度について」参議院議員 ツルネン マルテイ

 コメ戸別所得補償制度が今年度からスタートした。対象となるのは、コメを生産数量目標に即して生産した販売農家と集落営農に参加するコメ農家である。補償として、「標準的な生産に要する費用」と「標準的な販売価格」の差額相当分が助成される。交付金額は、主食用米の作付け面積10a当たり1万5000円で、直接支払により交付する。ちなみに、これは「米のモデル事業」と呼ばれている。
 併せて、麦、大豆、米粉用米、飼料用米等に対して、主食用米並みの所得を確保し得る額を交付する。これには水田裏作の拡大や水田の転作を促進することを通じて、水田を余すことなく活用して食料自給率の向上を目指すというねらいがあり、「自給率向上事業」と名づけられている。「米のモデル事業」とこの「自給率向上事業」の2つの事業は、セットで実施されることになっている。

 「米のモデル事業」のねらいについて、農林水産省のパンフレットには次の説明がある。
 米の生産には苗の費用のほか、肥料代、農薬代、農機具代や人件費などの経費がかかります。ところが標準的な農家の場合、米の販売価格からこれらの経費を差し引くと、慢性的に赤字になっています。また、農業には景観や国土の保全など、さまざまな役割がありますが、この役割に対する価値は価格に反映されません。
 このため米のモデル事業では、私たちの食料の供給を担う農家が安心して農業を続けるように、その部分を補い、再生産を支援します。

 民主党は以前からこの戸別所得補償制度の導入を検討しており、政権公約としてマニフェストにも盛り込んでいる。ようやく米農家に対してその実施がスタートできたわけだが、自民党などからは相変わらず「バラマキ」だとの批判もある。来年度からはこの制度の「2ラウンド」として畜産、林業、漁業においても直接支払い制度の導入を掲げているが、今回の選挙で参議院が「ねじれ」状態になったので、必要な予算を巡って激しい攻防が予想される。
 しかし、我々民主党は、日本の農林水産の生産は十分な直接支払なしでは到底生き残れないと考えている。日本の食料自給率を上げるためには、この戸別所得補償制度が必要であり、政府与党はこの制度の必要性を粘り強く国民に説明し理解を求めることが不可欠である。また同時に、食の安全と安心の確保という課題は、国民に対する責務であるはずだと思う。
 本来ならば農産物においても、他の製品と同様に生産コストを販売価格に含めるべきである。しかし、残念ながら、農産物に限っては、大半の消費者が生産コストより安い販売価格に慣れているので、生産者は生産コストを販売価格に反映できず、営農が赤字になっている。例えば、主食であるご飯の一杯分は、ペットボトルで販売されるミネラルウォーターより安い。にもかかわらず、消費者が生産コストに見合う米の値段を払いたがらないというのは、おかしくはないだろうか。私からみれば、これは「矛盾」と呼ぶべき状況である。残念ながら、これは日本に限った話ではなく、欧米にも同じような傾向がみられる。その証拠に、欧米においては、農家に対する公的補償は日本よりもはるかに高い水準にある。
 もちろん、日本の農業の生産コストが高くなっている背景には他にも問題がある。例えば、日本の農家の大半があまりにも小規模で、輸入農産物に比べ生産コストが高くなっているというのは無視できない点ではある。とはいえ、所得補償が不可欠であるし、国民の皆様方にも、日本の農業を救うためにこの制度が必要であり、決してバラマキではないことは理解していただけると思う。
 このように、「米のモデル事業」と「自給率向上事業」は、危機に瀕する日本の農業を再生させる上で、大きな役割を果たすものではあると思う。ただし、制度の具体的な実施に当たっては見直す余地がまだあるだろうし、日本の農業が危機から脱するのは、容易なことではないだろう。農林水産省のパンフレットには日本の農業の危機的状況を示す現実が記述されているが、その中から、ここでは二つの事実を紹介したい。
 まず一つ目は、国内の農業人口の減少である。平成2年に850万人いた就農者は、平成20年には490万人にまで落ち込んでいる。平均年齢は65歳と高齢化し、後継者が育っていない。このままでは、食料自給率の向上はおろか、安定的な食料供給ができなくなる恐れがあるという。
 二つ目の問題は、農業所得の減少である。安価な輸入農産物の国内市場への浸透や、需要を上回る生産等により、農産物価格が低迷してしまっている。そのため、ここ15年間で農業所得は半減しているのである。

 最後に、私のミッションである有機農業との関連について、少し触れたいと思う。今回の所得補償制度と有機米の生産との間の関係については、有機米の生産が今回の所得補償制度によって恩恵を受けるのか、あるいはそうではないのか、議論が存在しており、簡単に結論を出すのは難しいようである。しかし、いずれにせよ、私は有機米を選択して購入している消費者の姿勢を評価したいと思っている。有機米の生産コストは慣行農業のそれよりも高く、そのために有機米の販売価格は割高になっている。そんな有機米を選択して食べている消費者というのは、生産コストに見合うだけの値段を支払うことに賛同している消費者であるといえる。彼らが食の安全のみではなく、有機農業が環境保全にも貢献していることも理解した上で、有機米の購入という形で有機農業の推進に参加しているのだとしたら、本当に嬉しいことである。
    

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