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日本のコメの不思議 Ⅲ

日本のコメの不思議 Ⅲ

■不思議その7:日本農業を衰退させてきた農協■ 
 こうした小規模兼業農家を支えているのが、農協である。農家が使う農薬や肥料、農耕機具などは農協から買える。生産物も一括して販売してくれる。
 農協から見れば、米価が高いほど、高い農薬、肥料、農業機械を買ってもらえる。コメの販売手数料も膨らむ。組合員約500万人、准組合員約440万人を抱える農協が、高米価を要求する政治圧力団体になったのは、当然であろう。
 940万の票を使って、農協は自らの利益を代弁する議員を国会に送り込み、その農林族議員が農林省を動かす。こうして高米価、コメ輸入阻止、そして減反政策という摩訶不思議な農政が行われるようになった。
 減反政策の見直しを示唆した町村長官に、自民党の中から猛反発が出たのも、農協をバックとする農林族議員からである。
 自民党ばかりではない。かつての社会党も農村票をとるべく、そして自らは政権担当の可能性もないので、コストを無視して、自民党以上に強硬に米価引き上げを要求していた。膨大な国庫負担の対応に追われる自民党も、選挙対策上、それに同調せざるを得なかった面がある。
 高米価と減反政策を通じて、数は多いが生産性の低い小規模兼業農家の既得権益を守ってきた農協は、それゆえに日本農業の構造的改革を阻んできた「抵抗勢力」であった。農協こそが高米価によるコメの消費減退と、減反による米作の衰退という日本農業の衰亡を後押ししてきた。これが山下氏の説く「農協の大罪」である。

■8.フランス農政の成功に学ぶ■

「農協の大罪」で未来の見えない日本の農政に対して、大規模専業農家中心に農業大国を築いたフランスの成功は鮮やかである。
 フランスは食料自給率122%の農業大国である。国土を都市的地域と農業地域と明確に区分し、農地を主業農家(労働の半分以上を農業に投入し、そこから所得の半分以上を得る農家)に積極的に集積した。これにより農場規模は17ヘクタールから52ヘクタール(2005年)へと拡大した。規模の拡大と農業技術の振興により、小麦の単収はアメリカの3倍となっている。
 供給能力が増加して農産物の国内価格は下がるが、補助金は農家に直接支払いをする。国民に安い食料を供給するとともに、余剰分は輸出に回すことで、世界的な食糧不足の緩和にも貢献している。国際競争力を持ち未来の明るいフランスの農業には、若い人材も集まる。54歳以下の農業者が6割を占める。
■9.「瑞穂の国」の再建へ■
フランスの農政は、日本とはまったく逆の方向をとり、中型先進国でも農業大国になれるというお手本を示した。日本も同様の政策により、新たなる農業大国になれる可能性がある。
 前述のように、5~10ヘクタール規模の農家なら、1万円の中国産米に対して、美味しく安全な国産米を1万1千円の価格で供給できる。週末農家の農地を専業農家に貸し出すなどの政策により、さらに大規模化を進め、国内には安価なコメを供給し、余剰分は国際市場に輸出すればよい。我が国は美味しく安全なコメの輸出国になれる可能性を十分に持っている。
 それは食糧自給率を上げるだけでなく、農業の持つ国土保全、自然保護、景観保全という多面的機能を維持することになる。
 緑の水田が広大に広がり、若者を含めた農家が高度な技術、設備を活用して、美味く安価な国産米を国内外に安定供給する。
そんな「瑞穂の国」を再建したいものである。
今回をもって終了します。

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