朱鞠内からの手紙 第7回 会員 宮原 光恵
私たちが何故わざわざ気候の厳しい朱鞠内を就農地として選んだのか、ということはこれまでに書きましたが、この後はようやく自分たちの手で農業を始められるようになってから、朱鞠内での農業がどんな様子だったかについて、思いつくことをお話しましょう。
新規就農で朱鞠内で畑作をやる?そんな夢のような話、出来るわけないじゃないか。そんな世間からの声を聞きながらも、やっとたどり着いた自分たちの手で農業がやれる、という現実に、私たちは有頂天でした。そして、朱鞠内で農業をやる大変さがどの程度のものなのかも全然わかってはいませんでした。
私たちが手に入れた農地は8,2ha、借地約12haの概ね20haでの耕作開始でした。トラクターはどちらも中古で、ファーガソンの85馬力とフォードの72馬力フロントローダー付きの2台。作業機はほとんどなく、前の地主さんはトラクターも作業機も様々な農作業道具に至るまでお隣さんと共同で、私たちに経営譲渡した後もお隣さんと共同でやっていったらいいと思っていらしたようでした。が、いざ私たちが始めるとなると、お隣さんは共同は困るとのこと。夫も自分で所有したいと考えていたので、共同のものはほとんど無くなりました。
機械にうとかった私は、それがどういうことなのかもわかるまでにはかなり時間がかかりました。けれども季節は待ってはくれません。雪が解けるとすぐに開墾の作業機や播種機などが必要になりました。とりあえず播種まではお隣さんが作業を終えた後に貸していただくことになり、ジャガイモやそばなどを植え付けました。栽培管理は元の地主さんの指示通りにやることにし、その年の夏は好天に恵まれたこともあって順調に出来秋を迎えつつありました。
秋には収穫作業のためにどうしても必要な機械がありました。特に問題だったのがジャガイモの収穫です。研修農家さんは大きなジャガイモの収穫機械を持っていて、すごいスピードで広い畑を収穫していっていましたが、私たちにはそんな大きな機械を買うことは出来ませんでした。それどころか、掘り取り機械のポテトデガーすら手に入るあてがありませんでした。十勝に住んでいる私の身内に聞いてみたり、農協に相談してみたりしましたが、なかなか手頃な機械はすぐには見つかりません。勿論新品を買う予算などあるはずがありません。どうやったらデガーが見つかるか、思いつく限りあちこちに相談していましたが、9月に入る頃になっても見つかりませんでした。最悪、鍬で掘るのか?!そんな話が出るくらい切羽詰まってどうしたらいいのか途方に暮れていたある日、夫がるんるん上機嫌で帰ってきました。「おい、デガーあったぞ!」なんとお隣の士別市の農機具屋さんに立ち寄ったら、「そこにデガーがあるじゃないか!」という訳で、さっそく買うことに決めてきたというのです。そして、「今年の収穫は全部手拾いだぞ。覚悟しろぉ!」ジャガイモは6か所の畑に全部で2町4反。その前にかぼちゃ1町の収穫もあります。「この年になって、芋を手拾いすることになるなんて、考えたこともなかったぞ。」元の地主さんはそう言いながら、ご夫妻で手を貸してくれました。