「100%の関税撤廃は日本に恐慌を来す!」 参議院議員 ツルネン・マルテイ
「100%の関税撤廃は日本に恐慌を来す!」
参議院議員 ツルネン・マルテイ
最も打撃を受けるのは農業だ。生産は4.1兆円減。食料自給率は14%に低下。多面的機能は3.7兆円減。農業と関連産業への影響試算ではGDP7.9兆円減。就業機会340万人減。
このような政府試算であるにもかかわらず、菅直人総理は「日本農業を活性化し再生させることと、貿易の自由化という方向とを両立させたい、なんとしてもそれを図らねばならない」と言っている。
もちろん農業分野とは大きく食い違う試算もある。内閣府では、関税の100%撤廃ならGDPが3兆円増加する。また経産省では、日本が100%関税撤廃に参加しないなら10兆円の損失が生じると試算する。
前原外務大臣が「日本のGDPにおける第1次産業の割合は1.5%だ」と発言したことも大きな反発を起した。例えば、国民新党の亀井代表は「国家にとって何が大事かはパーセントだけで判断できない」と強調した。
以上のような政府内でのバラバラな試算により、すでに日本に大きな混乱を引き起こしている。閣僚たちの見解もバラバラで、これでは内閣が分裂状態だと言われても仕方がない。
民主党も、この関税撤廃に参加すべきかどうかで分裂に陥るかもしれない。この問題が表面化した発端は、そもそも菅総理の発言である。
菅総理が、10月初めの所信表明演説において、「環太平洋連携協定(TPP)の参加を検討」する旨を発表したことにある。現在、党内の政調APEC・EPA・FTA対応検討PTでも急ピッチの検討が進められている。なぜそんなに急ぐ必要があるのかというと、11月に横浜で開催されるAPEC会議において、日本が議長国という立場を背負ってTPPへの参加を発表したいと考えているからだ。
ここで「環太平洋連携協定(TPP)」の概要を書く必要があるだろう。
TPP: Trans-Pacific Partnership Agreementとは、2006年に発効した、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ4カ国間の地域FTA(P4)が始まりであり、物品貿易分野では、原則『100%の関税撤廃』である。
2008年に米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムがTPPへの参加を表明。
2010年3月、交渉を開始。マレーシアの交渉参加が認められ、10月から交渉に参加している。10年以内の関税撤廃が原則となっている。
新規交渉参加には、現在交渉に参加している9カ国の合意が必要となっている。
日本がTPPに参加した場合の留意点は以下のとおり。
予め特定セクターの自由化を除外した形の交渉参加は認められない。
例えばコメの関税撤廃を除外することはできない。そうなると、日本のコメ農家が完全に国際競争に負けてしまい、日本のコメ文化が全滅するおそれが極めて高い。
尚、日本の農業の未来を懸念している民主党の国会議員たちが「TPPを慎重に考える会」を発足、私もそれに参加している。一回目の会合には115人の議員が参加、TPPの対応に関する緊急決議を行った。二回目の会合では農林水産関係の多くの団体の代表も参加、会長を務めた山田正彦前農林水産大臣は挨拶の中で、「TPPは単なる農業問題ではない。国のかたちを変える大きな問題である」と反論した。
一方、菅総理は参加検討の姿勢を崩していない。「10年後の農業をどうするかと、内閣が掲げる『国を開く』ことの両立は可能だと考えなければならない」と訴え続ける。
賛否両論はともあれ、TPPという英語の3文字がここ数週間各新聞の見出しになっていることは事実だ。TPPに参加することになれば、日本は間違いなく大混乱に陥るだろう。
太平洋地域だけでなく、世界全体でも貿易の自由化が急ピッチで進んでいる。日本もその戦いの中で国際競争を生き抜いていくためには、自由貿易が実現されるべきと私も考えているが、一方で日本の食料安全保障、文化や社会存立の根幹に関わることなど、守るべきものを守った上で進めなければならないと考える。
閣僚の中で意思統一が進まない理由の一つは、やはりこの問題の複雑さの表れであり、菅外交の正念場でもある。政府与党や農業関係者の中での見解が対立する現状下では、あわててAPECの場で交渉参加を表明すべきでないと私は考える。世界の貿易自由化がTPPという一つの組織のみにかかっているとは思わないからである。菅総理にとってこの問題は、消費税問題よりもはるかに大きな問題であり、日本の国のかたちがこのTPP参加によってどのように変るかが全く分らない現在、慎重に進むべき問題である。
TPPのような「例外なし」の原則は、おかしなルールであり、将来必ず見直すことになるはずである。そもそもどの国にも、日本のコメと同じようなセンシティブな品目があるものだ。100%の関税撤廃を条件にする協定の交渉には、日本は参加すべきでない、というのが私の結論である。読者の皆さんはどのように考えているだろうか。